ロンシャン礼拝堂

◆◇欧州からの文化の風【日本の未来のために】◇◆:No.88 ロンシャン礼拝堂
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            東駅からスイスとの国境へ
ル・コルビュジェロンシャン礼拝堂を訪ねる

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パリには7つのフランス国鉄(SNCF)の列車が発着するターミナル駅がある。
ここからフランス国内、あるいは国境の向こうのロンドン、ベルギー、スイス
などに向かう列車が放射状にそれぞれ出ていて、向かいたい地方の方面によって、
出発駅が違う。
6つの駅は全て、スイッチバック式の終着駅形式の駅で、駅同士は、鉄道では
繋がっていない。
だから、6つの駅の間は、メトロで移動する。

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東駅 Gare de l’Est は、これら6つの駅の中で、どちらかといえば小振りでうら
寂しい雰囲気のかんじがする駅だ。
ロンドンやベルギー・オランダへと向かうフランス版新幹線TGV北方線が発着する
北駅や、南の暖かいニースやマルセイユなどに向かうTGV南方線が出ているリヨン
駅などは、いつもごった返していて華やかなかんじがするが、それに比べてスイスや
ドイツ方面への列車が出ている東駅は、ひっそりとしていて静かなかんじだ。
北駅からパリ中心へと向かうメトロ4号線に乗っても、東駅はその途中の通過駅で、
うっかりとしていると知らぬ間に通り過ぎてしまう。

たしかリュック・ベッソン監督の映画「キッス・オブ・ザ・ドランゴン」で、主演
ジェット・リーが当局の追及を逃れてパリ市内に潜伏しようとする時、辿り着いた
場所が東駅だったという設定になっていたと思う。

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今の東駅はそんなかんじだが、100年前、この駅はストラスブール駅という名前
で、世界一の名特急であるオリエント急行がトルコのイスタンブールへと出発する
時の始発駅であり、パリ発の国際鉄道を象徴するとても栄えた駅だった。

航空機のスピード化時代の波に勝てずに、オリエント急行は1977年に一度その
歴史に幕を閉じるが、1982年にイタリアのベニス行きの路線として再度蘇った。。
今はその世界一のサービスを売り物に、東駅を始発駅として、昔ながらのそのブルー
の車体の列車を走らせている。

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私が東駅を訪れたのには1つの目的があった。
近代建築の巨匠と呼ばれる建築家 ル・コルビュジェ(1887〜1965)
が設計したロンシャンの礼拝堂の空間を訪ねることである。

ロンシャンの礼拝堂は、フランスの東の端のスイス国境に近い小さな町ロン
シャンにあり、パリから訪ねるにはちょっと遠く、できれば1泊旅行で行き
たいところなのだ。
そこをなんとか日帰りで訪れる方法を探すため、私は東駅の切符売り場に来
たのだった。

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地図を持ち込み、東駅の切符売り場で手に入るフランス語の時刻表を調べ、
インフォーメーションカウンターでそれらを示しながらカタコトの英語で
やり取りをして、ロンシャンに日帰りで行く方法を調べた。
ロンシャンの駅は小さくて、日本で手に入るトーマスクックの時刻表には、
その駅自体が載っていなかったからである。

調べた結果は、ロンシャン Ronchamph 駅自体を目指したのでは日帰りで
帰ってくることは不可能だが、手前のベルフォート Belfort 駅に停まる
急行は1日に2本だけ出ているので、それを使えばなんとかなりそうだと
いうことだった。

行きは、東駅を朝7時に出る急行に乗れば、午前11時半にベルフォート
駅に着くことができる。
帰りは午後5時にロンシャン駅を発つ列車に乗って、ベルフォートで急行に
乗り換え、夜の9時半にパリ東駅に帰ってくることができる。
行きのベルフォートからロンシャンまでの間は、タクシーを使うしかない。
それが日帰りが可能な唯一のルートであり方法だった。

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次の日の朝、早めの朝食を済ませた後、まだ空が暗い早朝の6時にホテルを
出た。
メトロに乗って東駅に向かい、そこからベルフォートに向かう国鉄(SNCF)
の急行列車に乗った。
東駅を滑り出して発車した列車の車窓から、しだいに白んでくるパリの空を
見上げながら、久しぶりにワクワクした気分でいたことを今でも覚えている。

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4時間列車は走り続け、11時半にベルフォート駅に到着。
ホームに屋根がない、フランスの地方の町特有の駅の風景である。
心地よい日射しで天気は快晴。
思わず青い空を見上げる。

駅の前を見渡すと、ラッキーなことにタクシーが1台、客待ちしている
ところだった。
ロンシャンの礼拝堂の写真を運転手に見せて、「ここに行ってくれないか」
とたのむ。
手元のクシャクシャの新聞から目を上げて写真を覗き込んだ運転手は、
「Oh! Le Corbusier!! OK!」
そう叫ぶと、にっこりと笑った。

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平らな牧草地帯の中をまっすぐ一直線に伸びる道を、タクシーは猛スピードで飛ばし
ながら、隣の町ロンシャンを目指して走った。
やがてはるか遠くの正面に見えてきた小高い丘を指差して、
「あれだよ」
と運転手が言う。
よく目を凝らして見ると、緑の丘の頂に、白い不思議な形の丸みをおびた塔のような
ものが、木々の間からかすかにのぞいて建っているのが見えた。
それは私がこの目で始めて見たコルビュジェロンシャン礼拝堂の姿であった。

タクシーはロンシャンの丘の坂道を登り、丘の頂のゲートの前に停まった。
ゲートを抜けてなだらかな緑の芝生を歩くと、曲線を描き、他では決して見ることが
できないであろう不思議な形をした、太陽の光の下で白く輝く礼拝堂の姿がそこに
あった。

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ロンシャンの礼拝堂は、
「ノートル・ダム・デュ・オー礼拝堂Chapelle Noter-Dome-du-Haut」が正式な名称で、
建築家 ル・コルビュジェにより1950年に設計が開始され、1955
年に完成したものだ。

コンクリートは自由な形の表現が可能だが、その材料の特徴を存分に発揮
して造られた建物で、かつて見たことがないようなその不思議な形の建物
の表現は、完成当時においてもかなりショッキングなもので、大きな話題
になったと言われる。

しかしその造形は、斬新というよりは、人間の心の底にある遠い太古への
記憶に静かに訴えるものだと言った方がよいだろうか。

それは、蟹の甲羅をかたどったようであり、丘の頂に漂着したノアの方舟
のようでもあり、横たわる女性の豊かな肉体をかたどった彫刻の表現のよ
うにも見える。
しかし、そうしたことはその量塊(かたまり)としての造形による構成か
ら類推と連想ができるだけであって、それらに直接形が似ているというわけ
でもない。

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曲線と丸みをおびた形が多用された礼拝堂の外部の仕上げは、白いスタッコとコンク
リートの打ち放しにより、その建物の不思議な造形が表現されている。

特にコンクリートの打ち放しは荒々しい仕上げの表現となっていて、これをコルビュ
ジェはロンシャン以降の晩年の作品において好んで使うようになり、ブルータリズム
と呼ばれる50年代における建築の新しい表現の流行を作り出したりもした。

建築家 ル・コルビュジェの傑作と言われるロンシャンの礼拝堂は、彼自身
の作風の大きな転換点になった作品であるとも言われている。

それまでのコルビュジェは直線や幾何学、プレーンな面など、モダンでシン
プルな透明感のあるデザインによって近代建築の基礎を作り上げてきた。
しかし、ロンシャン以後の晩年は、荒々しいコンクリートの打ち放しや木材や
石といった材料によって、不定形で複雑な造形の作品を作り、遺したのである。

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ロンシャンの礼拝堂は、その内部空間もまた素晴らしい。

軸回転する大型の1枚扉の入口を開けて入ると、中はかなり暗いのだが、
奥の方に万華鏡のような色とりどりの光が射し込む場所があることが
わかる。

1mくらいはありそうなかなり厚い壁に穿たれた、大小さまざまな大きさ
の正方形の窓が壁全体に散りばめらるように開いていて、青や赤や黄色や
緑の色ガラスがはめ込まれているのだ。
そこから、絞られた太陽の光が、暗いひんやりとした礼拝堂の中に7色の光
となって引き込まれる。

低い曲面を描くコンクリートの打ち放しの天井の下で7色の絞られた太陽の光
に打たれていると、なんとも荘厳で静かな緊張感と穏やかさに充たされた、
不思議な気持ちになってくる。

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ロンシャンの礼拝堂は、なだらかな斜面の緑の芝生の上に建っている。

外に出て、緑の芝生の上で横になり、暖かい日射しを浴びながら青い空の下
でしばし日向ぼっこ。
礼拝堂はポツンと芝生の上に置かれるように建っていて、その白い外壁が
日射しを浴びてまぶしい。
ロンシャンの礼拝堂は、あんがい小さい。
写真で見て想像していたよりもかなり小さいことが、1回りした後で外から
改めて見てみるとわかる。
すごいけど小さくてちょっとかわいい礼拝堂。
ロンシャンの礼拝堂はそんな場所である。

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3時にロンシャンの礼拝堂を出て、ロンシャンの町へと向かう下りの坂道
をくねくねと歩いて下りる。
30分くらいで丘のたもとのロンシャンの町まで下りることができた。

町の小さなカフェで遅い昼食と珈琲。
5時にロンシャンの無人駅から列車に乗り、夜はもう暗い9時半にパリ
の東駅に到着。

素晴らしい空間に出会うことができ、また列車の旅を楽しみながらフラ
ンスの地方の自然を日向ぼっこしながら満喫できた、とても充実した
1日だった。

以下、ロンシャンの礼拝堂が見れるサイト
http://www.galinsky.com/buildings/ronchamp/
http://figure-ground.com/ronchamp/
http://www.architecture-photogallery.com/results-%E3%83%AD%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%B3%E6%95%99%E4%BC%9A.html
http://4travel.jp/traveler/ippuni-gm/album/10179291/

以下、ロンシャンの礼拝堂のHPサイト
http://www.ronchamp.fr/

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