ボーブール

◆◇欧州からの文化の風【日本の未来のために】◇◆:No.102 ボーブール
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         ポンピドーセンター:ボーブール
         来的建築のヴィジョンの中に
       欧州の都市と広場の歴史と伝統を見る
        
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今では、ルーブル美術館と並ぶ、パリの一大観光名所になりましたが、建設前の当時
は、かなり寂れた地区だった、パリのボーブール地区に、「ポンピドーセンター」の建
設計画が決まり、その建築案を募るための、国際コンペ(設計競技)が行われたのは、
1973年です。
「ポンピドーセンター」(愛称:ボーブールセンター)の建設計画は、寂れたパリの西
の地区ボーブールに、美術館、図書館、映画館、芸術・文化センター、カフェ・レスト
ランの、一大複合文化施設を建築するという、再開発地区計画で、当時の大統領であっ
たポンピドーが、音頭をとる文化政策の一環として、建設計画がスタートしました。

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ボーブールの国際コンペ(設計競技)には、世界中の建築家から740もの案が集まり、
提案された内容のレベルもそれぞれに高くて、コンペの歴史の記録に残る国際コンペ
(設計競技)となりました。
当選したのは、レンゾ・ピアノ(イタリア)と、リチャード・ロジャース(イギリス)
の、2人の建築家のチームによる案で、これが実現することとなりました。

ところで、当選案の建物は、鉄骨の柱や梁が外に剥き出し、赤や青に塗られたダクトや
配管が外に剥き出し、ガラスのチューブのエスカレーターが外に剥き出しという、一見、
まるで工場のようなデザインの建物。

「パリの伝統ある街並にふさわしくない」
「グロテスクな鉄骨のバケモノ」
と、パリの市民や文化人が猛反対。
1977年に工事が完了した後も、「ポンピドーセンター論争」は市民の間でしばらく
続きました。そうした顛末は、100年前の当時、同じくパリの市民や文化人が猛反
対した、「エッフェル塔論争」の歴史と並んで、有名です。

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現在、ポンピドーセンターは、入場者数がルーブル美術館を超えるほどになり、
観光名所として、見逃せない場所となりました。

美術館や芸術・文化センターは、常に新しい話題や作品の情報を発信し続けていて、
最新のアートの情報を求める様々な人達が集まる場所になっています。
図書館は、夜の22:00まで開いていて、その膨大な情報資料と蔵書は、学生から大人
までの様々な市民にとって、知的刺激を得、学習するための場所として、欠かせない
場所となっています。

レンゾ・ピアノと、リチャード・ロジャースの2人の建築家は、パリの伝統ある街並
の中に、鉄とガラスの斬新なデザインを、あえて、持ちこむことにより、新旧の対比
による強いインパクトを強調することで、新しい「芸術文化センター」としての表現
を実現することを、目論んだといわれています。

当初は非難轟々で理解されませんでしたが、そのデザインの成功は、現在のポンピドー
センターがパリの名所となり、賑っている事実が、証明しているといえるでしょう。

現地で見ると、ポンピドーセンターの「工場のような」鉄とガラスの建物が、
巧みにパリの伝統のある街並に溶け込んでいるから、不思議です。

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ところで、ポンピドーセンターの「工場のような」鉄とガラスの建物は、しかし、
工夫された様々な新しい技術による斬新なアイディアが、随所に盛り込まれた建物
であることと、同時に、
欧州の都市の歴史と伝統のある構成を、上手に取り入れて設計された建物であるこ
ととが、現地を訪れてみると、よくわかります。

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白く塗られた、何本もの異様に細い線のような柱と、斜めのテンション(引張り)材
によって、建物全体の四角いボリュームの、籠のような構造体が組み上げられていて、
その細い線材による籠の構造体に、ボーブールセンターの細長い長方形の巨大な6枚の
床と、黒くて細いサッシのガラス壁面が、絶妙なバランスで、空中に、ぶら下げられて
いる。
柱が異様に細いことから、この巨大な建物は、柱に「支えられて地面に立っている」
のではなく、テンション(引張り)材に引張られて「空中にぶら下げられている」こ
とが、現地で見てみると、よくわかります。

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ポンピドーセンターの建物は、「ボーブールセンターの細長い長方形の巨大な6枚の床」
であり、四角いボリュームの細い線材による籠の構造体そのもの、でもあるといえる。

ポンピドーセンターの東側は、人々が集まる広場になっていて、ガラスのチューブの
エスカレーターと空中廊下が、籠の構造体に外側に、ぶら下っている。
反対側の西側は、車の交通量が多い大通りになっていて、赤や青に塗られた設備機械
やダクトが、ぶら下っている。

「ボーブールセンターの細長い長方形の巨大な6枚の床」は、「東側のガラスのチュー
ブのエスカレーター・空中廊下」と、「西側の赤や青に塗られた設備機械やダクト」と
いう、2つの「重し」の間に挟まれて、その間に、天秤のように、微妙なバランスで、
ぶら下げられている。

レンゾ・ピアノと、リチャード・ロジャースの2人の建築家のアイディアを受けて、こ
の引張りと天秤による、絶妙なバランスの構造体のデザインを、実現したのは、当時、
イギリスのオブ・アラップ & パートナーズ構造事務所の構造エンジニアだった、
ピーター・ライスだと、言われています。

ピーター・ライスは、ポンピドーセンターの構造体に使う鉄骨材料にも、細やかで、
優雅なアイディアを与えたと、言われています。
現代に普及している一般的な鉄骨材料は、「錬鉄」、形はまっすぐな板材や型材で、
工場で生産されているため造り易く、構造計算も、単純で、やり易い。
19世紀の鉄は、「鋳鉄」、つまり鋳物で、人が手で叩いて造った材料のため、丸みを
帯びた複雑な形をしており、構造計算は複雑になるけれども、優雅で、人に優しい、
表情と、形をしている。
19世紀のアール・ヌーヴォーなどの建築部品の鉄材に気品と味があるのは、それが
「鋳鉄」で出来ているからだとかねてから考えていた彼は、
ポンピドーセンターの、柱と梁を繋ぐピンジョイントの部材に、「鋳鉄」を用いるこ
とにしました。

鋳鉄と、四角いボリュームの細い線材による籠の構造体である「ポンピドーセンター」
は、パリの伝統的な重い石造りの街並みに対して、その軽快でシャープながらも細部
に優雅さをまとった形で対峙して、パリの21世紀の未来を予感させるかのような緊張
感を放ちながら、新しいボーブールの賑わいの中に、たたずんでいます。

以下、ポンピドーセンターが見れるサイト
http://sd13.maxs.jp/archiMAP/pompidou.html
http://sunflower.cocolog-nifty.com/photos/paris/pc230021.html
http://www11.big.or.jp/~toztec/archives/1/contents2/place1/paris/index5.html
http://fujiso-web.hp.infoseek.co.jp/heu6hp/peu031.html

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「ポンピドーセンター」の東側は、人々が集まる広場になっていて、大道芸人のパ
フォーマンスもあって、活気に満ちています。メトロの駅も東側にあって、人々は、
皆、この東側から、建物を訪れます。
建物を細長い長方形にして、西側に寄せて配置し、東側に、この大きな広場を確保し、
設計したこともまた、レンゾ・ピアノと、リチャード・ロジャースの2人の建築家
のデザインのアイディアの、味噌だったと、言えそうです。

建物を設計する時は、普通、敷地全体にバランスよく建物を配置して、設計しようと
考えるでしょう。無駄なスペースを造らずに、敷地全体をバランス良く有効に利用し
ようと考えるからです。
国際コンペ(設計競技)の入選案だった、日本人の建築家、黒川紀章の案を見ても、
そうした常識的な考え方で、設計していることが、よくわかります。

以下、黒川紀章のポンピドーセンターのコンペ(設計競技)入選案が見れるサイト
http://www.um.u-tokyo.ac.jp/publish_db/1997VA/japanese/illusive/16.html

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欧州の街を訪れるてみると、教会や市庁舎などの、市民のための重要な建物の足元の
正面には、必ず、広くて大きな広場があって、そこに大勢の市民が集っている姿を、
見ることができます。
パリのノートルダム寺院の前ににも広場がありますし、パリ市庁舎前の広場、ウィー
ンのシュテファン大聖堂の前の広場など、例外を見つけることの方がむずかしい程、
欧州の街のどこででも、見つけることができる、風景です。

美しいことで有名な広場といえば、イタリアの山岳都市シエナの、カンポ広場でしょ
うか。
扇形をしていて、中世の街並みに囲まれた、美しい広場です。
広場の床は、ゆるやかに擂鉢状に傾斜していて、正面の建物は、プッブリコ宮(現在
の市庁舎)と、マンジャの塔です。
床が傾いているため、広場に立つと、広場全体を、遠くまで見渡すことができる。
プッブリコ宮に向かって床が傾いた広場に、人々は座ったり、散歩したり、各々に
くつろいでいる姿を見ることができます。

以下、カンポ広場が見れるサイト
http://www.01.246.ne.jp/~yo-fuse/italia/italia12/italia12.html
http://www.itourismo.com/Special/87Backpack/87e116-Siena1.html
http://www2t.biglobe.ne.jp/~provence/italia/visit/visit02/siena.html

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ポンピドーセンターの広場の床も、ゆるやかに擂鉢状に傾斜していて、人たちはこの
傾いた広場の床を歩いて、建物の玄関口に入ります。
広場のあちこちで、人々が座ったり、散歩したり、各々にくつろいでいたり、大道芸
人たちが、様々なパフォーマンスをしている賑わいの中を抜けて、建物に入ることが
できるよう、計画されています。

建物のを敷地いっぱいに建てずに、細長い6層の長方形にして積み上げて西側に寄せ
て配置し、東側の広場に、敷地の半分以上の大きなオープンスペースを充てた、レン
ゾ・ピアノと、リチャード・ロジャースの2人の建築家のアイディアは、欧州の都市
の歴史と伝統のある構成を、上手に取り入れて設計されたデザインとして、十分な成
功をおさめたと、言えそうです。

以下、ポンピドーセンター前の広場が見れるサイト
http://www11.big.or.jp/~toztec/archives/1/contents2/place1/paris/index5.html
以下、ポンピドーセンターのHPサイト
http://www.cnac-gp.fr/Pompidou/Home.nsf/docs/fhome

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