プルーヴェと「住宅」の夢

◆◇欧州からの文化の風【日本の未来のために】◇◆No.90:プルーヴェと「住宅」の夢
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           Jean Prouve ジャン・プルーヴェの、
              「住宅」の夢と未来


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 「新しい人(ビジネスマン)たちは、理想的な協同作業の精神を理解せず、
 商業的な意味をもつ建築様式を見つけ、どんな建築にも使用できるエレメ
 ントを、量産しようとした。
  これは私の考えとは、はなはだ違っていた」

これは、その特異な作品と業績により、フランスにおいて、近代建築のにおける
数々の新しいアイディアを生み出し、実現させることで、その発展に貢献した
建築家=建設家であった、Jean Prouve ジャン・プルーヴェが、1952年に、
その自らの生産手段であり拠点であった、マクセヴィル工場を、大企業フランス・
アルミ社に買収され、
「2度とあなたの工作所に近づかないように」
と追い出されたときに、語った言葉である。

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ジャン・プルーヴェは、ドイツ国境に近い、フランス東部の町 Nancy ナンシーで、
金属職工であり、地元の芸術学校エコール・ド・ナンシーの校長でもあった、父、
ヴィクトール・プルーヴェの息子として、1901年に生まれた。
19世紀のナンシーといえば、美しい鉄工芸品の生産地として有名で、ナンシー派
エミール・ガレと言えば、アール・ヌーヴォーの美しいガラスと鉄の工芸品を生み
出した作家として、その美しい作品の様を、御存知の方も、多いかもしれない。

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ジャン・プルーヴェは、弱冠23歳で、ナンシー市に自らの工房を構え、1952年、
51歳の時に、その自らの生産拠点であった、マクセヴィル工場を、大企業フランス・
アルミ社に買収されて、工作所を去るまで、工作所=工場という、物を直接加工する
ことができる生産手段を、自ら所有し、
「自ら考案した建築や部品を、自らの手でつくる」
という、その独特な創作スタイルで、20世紀フランス近代建築の発展の、重要な位置
に、いつづけた。

工場の中で、油にまみれながら鉄を叩き、つなぎ、曲げ、組み立て、その感触をもとに、
立体的なスケッチを描いて、改良と発想のアイディアを、得ていたと言われている。
机に向かうよりも、工場で油にまみれながらハンマーを握り、鉄を加工して体を動かす
ことこそが創作だ、と考えていた彼は、自らを建築家ではなく、工作家=建設家、と称
することを、好んだと言われている。

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プルーヴェは、建築家や建築エンジニアと組んで仕事をする中で、輸送や、組み立て
方法も考慮した、部材のユニット化の方法やディテール、建設方法と人工や工程を、
提案し、コラボレーションを行いながら、建物を建設するという仕事の仕方で、数々
の斬新なプロジェクトとアイディアを、実現していった。

建築家であるボードアン&ロッズと、エンジニアであるボディアンスキー、と組んで、
1939年に、パリ郊外クリシーに建設した「クリシー人民の家」は、そうした建築家
やエンジニアと組んでのコラボレーションの中で、プルーヴェのアイディアが、最も
成熟した形で実現したプロジェクトとして有名で、今でもその斬新なデザインを、現
地で見ることができる。
可動式で開閉する金属製の巨大な大屋根、雨樋を内蔵した縦長の金属とガラスのカーテ
ンウオールのディテール=細部設計などは、とても70年前のものとは思えないほど、
シャープで、クリアーで、美しい建物である。

見て気付かれる方もいるかもしれないが、現代フランスを代表する建築家、ジャン・
ヌーヴェルの作品、CLM/BBDO広告会社ビルなどは、プルーヴェのデザインのアイデ
ィアにヒントを得た作品であることは、確実だ。
ジャン・ヌーヴェル自身も、プルーヴェを、自ら最も影響を受けた尊敬する建築家と
して、賞賛を惜しまない発言をしている。

以下、クリシー人民の家、数々の住宅など、プルーヴェの建築作品が見れるサイト
http://www.t3.rim.or.jp/~sfjti/a&u/planning/prouve02.html
http://media.excite.co.jp/ism/061/02architecture12.html

以下、ジャン・ヌーヴェルのCLM/BBDO広告会社ビル他の建築作品が見れるサイト
http://tenplusone.inax.co.jp/archives/fieldwork/photoarchives/0410/030.html
http://www.architecture-photogallery.com/results-%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%8C%E3%83%BC%E3%83%B4%E3%82%A7%E3%83%AB.html

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その他の、プルーヴェと建築家のコラボレーションといえば、1925年に、建築家
ロベール・マレステヴァンが設計した、住宅の玄関扉の金物格子グリル、1940年代
に、建築家ル・コルビュジェの従兄弟のピエール・ジャンヌレと協働した、組み立て
住宅のプロジェクト、女性建築家シャルロット・ペリアンとのインテリア・サニタリー
=キッチン・水周りの製作プロジェクト、ル・コルビュジェ設計の集合住宅ユニテ・
ダビタシオンの、金属製床構造、キッチンセット、メゾネット階段、家具などの製作
とデザインなどがある。

コラボレーションの相手は、いずれも、フランスと世界の近代建築の歴史を代表する
建築家たちであり、20世紀の新しい建築プロジェクトが実現した場所には、必ず、
プルーヴェがいた、といっても、過言ではないだろう。

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「建築の部品を、自らの手と感性で製作して、組み立てて建物を建てる」

という創作方法をとったプルーヴェが、生涯、最も力を注いだプロジェクトに、金属
や木を材料に使った、安価な組み立て住宅の、プロジェクトがある。
「コック構造」と呼ばれる独特な形をした骨組みと、独自の形とシステムにデザイン
された外壁パネルにより、セルフビルド=自力建設が、極力可能な形の、庶民のための
住宅のデザインと、洗練が、目指された。
それは、工場生産ではありながらも、その中に、ものづくりの共同作業の手づくりの
温かさがこもった成果と、生活感の手の痕と痕跡をもまた失わずに実現された住宅を、
20世紀の時代に実現しようとする、プルーヴェの、住宅への夢であった。
ナンシーの住宅や、ムードンの住宅に実現されたそのデザインには、近代の工業化時代
の中で、工業化時代の材料を用いながらも、ヴィジョンのある生活観と、手づくりの
感覚がある、生活の豊かさを実現しようとした、プルーヴェの、住宅への夢を感じるこ
とができる。

以下、プルーヴェの住宅作品が見れるサイト
http://www.t3.rim.or.jp/~sfjti/a&u/planning/prouve02.html
http://media.excite.co.jp/ism/061/02architecture12.html
http://media.excite.co.jp/ism/061/02architecture11.html

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「新しい人(ビジネスマン)たちは、理想的な協同作業の精神を理解せず、
 商業的な意味をもつ建築様式を見つけ、どんな建築にも使用できるエレメ
 ントを、量産しようとした。
  これは私の考えとは、はなはだ違っていた」

これは、プルーヴェが、1952年に、その自らの生産手段であり拠点であった、
マクセヴィル工場を、大企業フランス・アルミ社に買収され、
「2度とあなたの工作所に近づかないように」
と追い出されたときに、語った言葉であるわけだが、この言葉が意味することは、
深い。

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「新しい人」=「ビジネスマン」は、「住むための住宅」ではなくて、
「売るための住宅」を、つくる。

住宅の建設に、資本と企業が入り込む時代になると、「住宅」の風景は、急速に変わっ
ていくことになった。
住宅から「生活感」や「温もり」といった、手づくりの皮膚感覚が、どんどん消えて
いき、「商品」としての、空々しいイメージや装備や仕様ばかりが、どんどん増えて
いく。
庶民の人たちが住宅を建てるときに何が大切なのか、その住宅を購入する庶民という
当事者にはもちろんのこと、住宅を供給する住宅メーカーやマンションディベロッ
パーにも、わからなくなってしまった時代になって、久しい。

「住むため」に本来的に住宅に必要なものが、見えなくなってしまったので、
「売るため」に必要な「装備」や「仕様」ばかりが、あたかも住宅に必要不可欠なも
のであるかのように、メーキャップされて、住宅が建つ時代に、なってしまった。

「ビジネスマン」が建てようとしているのは、実は「住宅」などなのではなく、何か、
別の、メーキャップされた「商品」の「イメージ」なのではないか。
その「装備」や「仕様」さえも、実は「売るため」の空虚な「イメージ」なのでは
ないのか。
「生活感」や「温もり」といった、住宅に必要な、「実体」や、「夢」ではなくて。

もしかしたら、現代は、住文化が、歴史上、最も貧しい時代なのかもしれない。

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だが、21世紀になった現在、「住宅」の希望は、夢のある方向に、もしかしたら、
もう1度、向かうことができるかもしれない。
住宅が夢を見ることができる時代が、もう1度、訪れることがあるかもしれない。

大量生産と、大企業が、必ずしも、よしとされた時代は、過ぎ去りつつあるという、
観測も、できなくはない時代だからだ。
現代社会は、企業の組織の形が、ピラミッド型から、フラット型へと、向かっている
時代だと言われる。
それにしたがって、仕事の形も、従来の上位下達から、個人一人一人が、目的に応じ
て結びつき、コラボレーションしながら創作していく形に、情報技術とコンピュー
ターのユビキタスな発達の中で、変わりつつあるのだと、見ることもできると言われる。

プルーヴェが、自らの工場を、大企業フランス・アルミ社に買収され、
「2度とあなたの工作所に近づかないように」
と追い出されたとき、
そこには、あきらかに、「大量生産」と、「大企業」へと向かう、時代の流れがあった。

それが、最近は、「個別対応のこまめで多様な生産」や、重厚長大よりも、「フットワー
クのきくフラットな組織」へと、時代が向かいつつあるのだとすれば、「住宅」も、
商品という空虚な「イメージ」から、「生活感」や「温もり」といった、住宅に必要な、
「実体」や、「夢」に、向かうことが、できるかもしれない。
少なくとも、そういう夢を、今、少し、見てみたいと、思うのである。

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プルーヴェは、1971年のポンピドセンターのコンペ(設計競技)において、
その審査委員長を務めた。
レンゾ・ピアノ(イタリア)と、リチャード・ロジャース(イギリス)の、2人の
建築家のチームによる斬新な案を、1等に担ぎ出し、これを実現させることに、尽力
し、貢献した。
審査の過程で、レンゾ・ピアノと、リチャード・ロジャースの案の、引張りと天秤に
よる、絶妙なバランスの新しい構造体のデザインが、果たして本当に実現できるのかと、
審査員の間で、議論になったという。
当時、審査員には、アメリカの大御所建築家のフィリップ・ジョンソンや、ブラジル
の建築家、オスカー・ニーマイヤーなどがいた。
プルーヴェは、「こうすればできるじゃないか」と、紙の上に、引張りと天秤の構造体
のスケッチを、サラサラッと描いて見せたというのは、大きな伝説として、残っている。

プルーヴェは、ポンピドセンターのコンペ(設計競技)において、21世紀のパリのた
めの新しい建築の実現のために、大きな役割を果たした後、夜間の建築学校の教師を勤
める余生を送り、1984年に、82歳で、故郷ナンシーの地で、世を去った。

プルーヴェが見た建築と住宅へのヴィジョンと夢は、今世紀の幾多の人々の胸の中に、
彼が残した住宅作品やポンピドセンターと共に引き継がれ、実現を待っているのかもし
れない。

以下、プルーヴェを紹介しているサイト
http://media.excite.co.jp/ism/061/index.html
http://www.e-design21.com/designers/jeanprouve.htm
http://www.japandesign.ne.jp/HTM/JDNREPORT/021030/prouve_eames/index3.html
http://www.moma.pref.kanagawa.jp/museum/exhibitions/2004/prouve041008b/

ポンピドセンターのコンペ(設計競技)の経緯については、
◆ ◇欧州からの文化の風【日本の未来のために】◇◆No60:ボーブール
http://blog.mag2.com/m/log/0000142924/106110982?page=1#106110982
に詳しい。
 
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